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2005年7月28日 (木)

帰郷 ~木城えほんの郷~

「木城に”えほんの郷”ってあるらしいね」と私は母に尋ねた。木城とは私の故郷高鍋町の西にある山間の町だ。そこに”えほんの郷”という国内でも珍しいコンセプトを持った絵本美術館があることを、私はたまたまインターネットで知っていたのだ。「行ってみる? ここから30分ぐらいだよ」 母は私と絵が大好きな父(元絵描き)を車に乗せそこへ連れて行ってくれた。

木城えほんの郷”は高鍋町と木城町を貫いて流れる小丸川の上流にあった。木城町に入り5分も車を走らせると周りは深閑とした山奥の景色になった。空気がおいしい。

ロッジ風のそこには、美術館、絵本ショップ、イベント用の屋外ステージ、宿泊施設等があった。決して規模は大きくなくこじんまりとした施設だが、山の景観を邪魔しないように配慮されたそれらはスタッフの自然に対する優しさとこだわりを感じた。

美術館では絵本作家の浜田佳子と山口マオの原画展をやっていた。考えてみると、このような手描きの絵を鑑賞するのは何年ぶりだろう? 私は仕事柄、年がら年中デジタルなグラフィック付けなので、ひさびさの手描きの原画は心に染みた。手描きの原画には作家の筆遣いや息遣いが諸に残っているのでなんか心が温まる。そこに人がいる…という感じか。ましてや絵本の原画であるから、そこには計算された”ケレン味”はなく、素直な”気持ち”がシンプルな線と色で表現されていた。

ふと、24年前のことを思いだした。元々私は絵本作家になりたくて故郷を飛び出したのだが、それが今は何故かそれとは真逆の世界(コンピュータゲーム)で飯を食っている。でも、別に後悔はしていない。ゲームの世界にもそれはそれで”創造性”がある。(いや、あったという方が正確か…) あの時の気持ちがぶり返したのか、私はこういう澄んだ空気の山の中にアトリエを作って、ゆっくりと絵を描く生活をしたくなってしまった。

絵本ショップに入って驚いた。 御茶ノ水にある専門店にも負けないくらいのラインナップだったからだ。正直、なんでこんなところにこんな店が? と思ってしまうぐらいの質の高さだった。ショップ内のドリンクコーナーでアイスコーヒーを飲みながら私は母に「弟の子供達をここに連れて来てあげなよ。絶対あの子達の為にいいから」と促した。母は「必ず」と約束した。

そもそも、都会の真中にあってもおかしくないこのようなショップが何故こんな山の中にあるのか知りたかった私は、そのことをスタッフの女性に訊いてみた。彼女が言うには、もともと町にある失われ行く伝統文化を継承してゆくための施設を創ろうということで出発したらしいが、そこに絵本もいれようということで後から発展したそうだ。文化といえば、川を挟んで向かい側の山の方に武者小路実篤が構想したユートピア”新しき村(現在は埼玉県へ移動)”跡があるので、それと関係あるのかな? と思って訊いてみたが特に関係はないということだった。

心が癒されたひと時を終え、私たちは再び高鍋へ戻った。そういえば高鍋にも美術館がある。祖母の葬儀の次の日、舞鶴公園を散策したついでに寄ってみたがなんか違和感を感じた。とりあえず美術館なのだが、そこには”えほんの郷”のような”コンセプト”を感じず、ただの”上物(うわもの)”にしか感じられなかった。言い換えれば、創り手が『なんのために創ったのか?』という目的が感じられなかったのだ。うわべだけを創れば『形』になるものではない。『形』にはそれを考えた創り手の『これがやりたいのだ!』という強い心や考えが入ってないと生きてこない。『仏作って魂入れず』という言葉もあるが、まさにそのようなことだろう。

美術館に限らず、作品だろうが、なんだろうが、”一番大切なものが、はっきり見えてこないモノ”は相手の心を動かすことができない――等と、今更ながら、そんな基本的なことを、あの山奥にある小さな美術館に行って考えさせられた。

わにわにのおふろ

わにわにのおふろ

  • 作者: 山口 マオ, 小風 さち
  • 出版社/メーカー: 福音館書店
  • 発売日: 2004/10
  • メディア: 大型本
 
*ちなみに高鍋の美術館はそのあり方を考え直し、更に充実させてゆくために、町長自らいろんな美術館に出向き勉強しているとのことです。これからが楽しみです。

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